「どっかで見かけた気がしたんだが、気のせいか」



妙な胸騒ぎが過った男子生徒の独白は、誰にも拾われることのないまま、しゃぼん玉が割れたように消えてしまった。







夕闇が、迫る。




影が濃くなっていくにつれて、走るペースがだんだん速くなっていく。



走れ、走れ、走れ。


走れメロス……!

あ、間違えた。走れ幸珀!



「ケーキを我が手にするまで、走れぇえええ!」




私は一度帰宅して、早着替え選手権で優勝できそうなくらいの速さで男の姿になり、今洋館を目指して突っ走っている。


全ては、ケーキを食べるために!



食い意地が張ってると言われても構わない。


私はただ、己の欲望を原動力に走ってるだけだ!

それの何が悪い!!




空に星が灯る前に、洋館にたどり着いた。


よっし、計画通り。