ナミダ列車









「ほ!ほかにおすすめなところある?」



そんな時にえくぼをつくった明るい笑顔が隣から降り注がれてきた。

エリさんだ。盛り下がってしまった場に気をきかせてくれたのだろう。




「あ、えと…、戦場ヶ原をハイキングしたりするのもいいと思います!」

「うんうん」


エリさんと話しているあいだに正面を盗み見てみると、ハルナさんはもうすでに車窓の世界の中に戻ってしまっていた。

一方的に気がかりにさせておいて、肝心なところで私の手をかわしてしまうんじゃないか。





「湿原の中を木道に沿って散策できるんですよ。ほら、お腹が大きくなる前の今だから」

「湿原かあ、アクティブでいいねえ」

「白樺(しらかば)の木とか、季節折々の植物が見れますし、ああそうだ!ワタスゲやホザキシモツケが見頃になる6月中旬~8月上旬は、とってもきれいなんですよ」

「本当?今じゃない!」

「はい!写真とか好きですか?バックには男体山があってめちゃめちゃ絵になるんですよ!変化に富んだ壮大な自然を体感できますし、感性が刺激されます」




続けてエリさんにおすすめしたのは戦場ヶ原だった。


戦場ヶ原は栃木県日光市の日光国立公園内にある高層湿原。

湿原であり、かつ標高も約1,400メートルと高いことから木がほとんど生えていなく、人間より背丈の低い草ばかりなので非常に眺めが良いんだ。



なんでも、中禅寺湖をめぐって男体山の神と、赤城山の神が争った「戦場」だった、という神話が名前の由来といわれるこの地。

かつて湖であったものが湿原化したもので、400ヘクタールの広大な面積を誇るらしい。

湿原をぐるりと囲むように自然研究路が整備されていて、ハイシーズンには多くのハイキング客で賑わっている。




「木道はしっかり整備されていますし、緩やかな下り坂も多くて距離も短いので初心者でも安心です」

「お弁当とか食べたら楽しそうね!」

「そうですね!よく私もピクニックしてました。ああいうところで食べるお弁当って普段より何倍もおいしく感じますよね…」

「分かる!遠足思い出すなあ」