この村全体が、人も、家も……まるで時の流れに置いてけぼりにされたみたいに、何だか寂しそうに見えた。
そんなことをぼんやりと考えながら自転車を走らせていると、不意に自分を呼ぶ声が聞こえた。
宮崎は、自転車を止めて振り返る。
誰かが、大きく手を振りながら駆けてくるのが見えた。
「宮崎くーん!」
よく見ればそれは柚花の母で、宮崎は慌てて自転車の向きを変えて戻る。
「走ったりして大丈夫なんですか?」
僅かに肩で息をする柚花の母は、照れたように笑ってそっとお腹に手を当てる。
「お父さんにもゆずにも、気をつけるようにって言われているんだけど、ちょっとくらいなら平気よ。転ばなければね」
ふっくらとしたそのお腹を、優しく愛おしそうに撫でる柚花の母に、宮崎もつられるようにしてそちらに視線を向ける。
新しい命が、そこにあった。
「ところで、どうしたんですか?」
宮崎の問いに、柚花の母はハッとして、思い出したように手にしていた箱を差し出す。