漕ぎ出せば、生ぬるい風が顔に吹き付けた。

この自動販売機を過ぎれば、あとはもう見渡す限りの田んぼに畑。

農作業に勤しむまばらな人影や、何だか全体に細くて大きな鳥が、悠々と空を飛んでいる姿だけが、時折視界にちらついた。

民家の屋根は、振り返ればポツリ、ポツリと見えるきり。

それも、ほんどがすきま風だらけの大きな古い家ばかり。

その家も段々と、住む人がいなくなって、今にも崩れ落ちそうなあばら家と化している。

彼女がまだこの村で夏を過ごしていた頃、そんな家々を眺めて、寂しそうな表情を浮かべていた事があった。

それは、常に明るい笑顔を浮かべている彼女には珍しい程の切ない表情で、その辛そうな顔を見るたびに、宮崎もまた胸が苦しいほどに痛んだ。