聞こえる寝息が二つから三つに増えた頃、和果子は車体が傾くたびにガラスに頭を打ち付けて、それでも頑なに目を覚まさない宮崎の姿を見つめていた。

その無防備な寝顔が、今この瞬間だけは自分だけのものだと思えば、ちょっとした優越感に浸れる。

そう、彼女は今、ここにはいない。

それが嬉しくもあり、不在を喜んでしまう自分が情けなくもある。

ふと視線を下に向ければ、宮崎の後ろのポケットから、僅かにはみ出している物が目に付いた。

彼が大切そうにそこに入れるものを、和果子は一つしか知らない。

そしてそれは、どうしようもなく和果子の心を重たくする。

メールアドレスも、電話番号も知っていて、いつだって直ぐに連絡は取り合えるのに。

村を出ても、会おうと思えばいつでも会える距離にいるのは、自分の方なのに。

こんなにも、近くにいるのに……。

それでも彼は、いつまでもアナログな手段で連絡を取り合って、遠く離れた彼女を想い続けている。