「じゃ、お先に」



俺と希映は立ち上がって、定食屋をあとにする。



「おまえさ、なんかあんの?」


「なにが?」


「いや、あんな風に否定すんの珍しくね?」



前々から俺と希映はああやって言われることが少なからずあった。
でも、あそこまで否定する希映は初めてだったから。



「いや……」


「え!?」



何かを話そうとした希映の瞳から涙が流れてきていて、俺は慌てて希映を定食屋と会社の間の路地に引っ張る。



「……ごめん」


「どうしたんだよ。急に」


「好きな人が、いるの……」


「うん」



そんなとこだろうとは思ったけど。
希映のこういう話を聞くのは初めてだった。



「飲んだ時にね、そういう関係にはなったの」


「あぁ……」


「でも、彼はずっと同期の子のことが好きなんだ」



……同期?



「それ、塚田か?」



あの場にいた男は塚田だけだし。
たしかに塚田は茜が好きで、しかもさっきは何も発してなかった。