その恋、記憶にございませんっ!


 



「蘇芳様、婚姻届を見せてください」

 何処からともかく帰ってきた宮本は蘇芳の部屋に来るなり、そんなことを言い出した。

「あのとき、見せてくださらなかった婚姻届ですよ」

 母さん、谷底へ落ちた麦わら帽子ですよ、みたいな言い方するなよ、と窓際の椅子で本を読んでいた蘇芳は顔を上げて思う。

「……誰のだ」

「貴方のですよ」

 なにしらばっくれようとしてるんですか、と宮本は言う。

「お前に見せる義理はない」

「区役所の人間には見せる義理がありますよね。
 赤の他人に見せるのに、私に見せないのはおかしくないですか?」

 いや、そもそもその理屈がおかしくはないか? と思いながら、

「お前、やけにこだわるな」
と言うと、

「こだわりますよ。
 他ならぬ蘇芳様のご結婚に関することですから」
と言ってくるが。

 いや、そうだろうかな? と思いながら、蘇芳は手にしていた本を閉じた。