その恋、記憶にございませんっ!





「蘇芳? 誰だそいつは。
 唯は俺の婚約者だぞ」

 桝谷翔太は相手の言った不思議な言葉の意味をなんとか理解しようとし、訊き返していた。

 時差のある日本からの電話だが、友人からのものだったので、楽しく語らっていたのだが、ふいに聞き覚えの無い名前が耳に飛び込んできた。

 今日、会議で出会った三上蘇芳という男が、前田唯の婚約者だと名乗ったという。

 もう一度訊き返しても、友人はやはり同じことを言ってきた。

「少し気のおかしい男なんだろう。

 唯は可愛いからな。
 通りすがりの男でも惑わせたに違いない」

 そう結論づけたが、友人は、
『気のおかしいって。
 三上蘇芳は、三上会長の直系の孫で、本人の意向で今はなんの役職にもついてないけど、かなりの切れ者だよ』
と言ってくる。

「いやいや。
 仕事は切れても、頭のおかしい奴とか居るだろ」

 そこで不思議な沈黙があった。

 なにかこう、物言いたげな感じだったのだが、なんだろうな、と翔太は思っていた。