その恋、記憶にございませんっ!

 



 なんとか蘇芳を追い返し、ふう、と息をつくと、
「帰りましたか?」
と開けたままのドアの裏側から声がした。

 ひっ、と唯がドアを引っ張ると、壁とドアの隙間に宮本が立っていた。

「な、なんでそんなところに居るんですっ?」

 忍者かっ? と思っていると、
「いえ。
 本田が二千円の恩義により、私を足止めしておりましたので」
と言う。

 で、わかっていて、それに付き合ってあげていたわけですか。

 それはそれで人がいいな、と思っていると、宮本は、おもむろに、
「唯様、蘇芳様に気がないのなら、あの方に付き合う必要はありません」
と言い出した。

「心配なさらなくても、蘇芳様は、たぶん、あの晩、貴女にはなにもしてはおりませんよ」

 そういう方ではないですから、と宮本は言う。

「……そうじゃないかと思ってました」
と言うと、

「わかってて、なんで付き合ってらっしゃるんです?」

 そう不思議そうに訊いてくる。