その恋、記憶にございませんっ!

「いえ、それは結構ですよ」
と言いながら、やっぱり仕事に関しては真面目なんだな、と思っていた。

 いや、日常生活も、たぶん、この人自身はふざけているつもりもないのだろうが。

「明日は早いんだ。
 今日はもう帰らないといけないからな。

 仕方ない。
 キスのひとつもしたら帰ろう」

 さあ、来い、唯、と手を広げてくる。

「いや……忙しいのなら、そもそも来なくていいんですよ」
と言ってみたのだが、蘇芳はそんな唯の腕をつかみ、膝に引っ張って乗せようとする。

「ちっ、近寄らないでくださいっ」
と唯は両手で蘇芳の顔を押し除けた。

「今更、なにを照れている」

 蘇芳はがっしりとした腕で唯が逃げられないよう肩を抱き、言ってくる。

「すみません。
 初めてじゃないのかもしれませんが、記憶ないので、ちょっと――」
と言うと、蘇芳は、

「大丈夫だ。
 キスはまだしていない。

 本当にお前をもてあそんだだけだ」
と言い出した。