その恋、記憶にございませんっ!

 努力はしてみるもんだな、と思っていると、先程の慎吾の話を思い出したらしい蘇芳は、

「敵に塩を送ってやる必要はなかったな。
 俺はずいぶんと人がいい」
と言い出した。

 えっ?

 今、なにやら聞き慣れない言葉が、と思ったが、余計な突っ込みを淹れて、また変に話が壮大になられても困るので黙っていた。

「ところで、蘇芳さん。
 毎晩ケーキ、ありがたいんですが――」

「飽きたか?
 次は酒にしようか?」

「さ、酒はしばらくいいです」
と言うと、

「何故だ。
 酒のおかげで俺といういい伴侶と出会えたんだろうに」
と言ってくる。

 ……この男、何処まで本気だ。

「そうじゃなくて、太るからです」

 そう言うと、八時過ぎに食べたら太ると宮本が言っていたのを思い出したのか。

 蘇芳は撲殺するのにちょうどよさそうな、棚の上の重い置き時計を見、
「もうちょっと早く持ってきてやれればいいんだが、なかなか早くは帰れないからな」
と言う。