その恋、記憶にございませんっ!

 




 まだ戻ってこないな。

 そろそろ部署に戻らないといけないんだけど。

 慎吾は何度も腕時計を確認しながら、唯を待っていた。

 さっき会議に来た人たちに、幾つかもらった手土産の中から、女子社員が喜びそうなクッキーの箱を携えて。

 これを渡すのを口実に、唯と話そう。

 そう思って此処に来たのだが。

 あのおかしな男に自分の思いをバラされてしまったが、まあ、ちょうどいいような気もしていた。

 このまま手をこまねいてみていても、唯は、翔太かあの男のものになってしまうだけだとようやく気がついたからだ。

 何度目かに時計を見たとき、エレベーターが開いた。

 先程からスカばかりで、次々おじさんとかが現れるので、そのたび、お疲れ様ですっ、と挨拶ばかりを繰り返していた。

「待ってたのに、乗らないの?」
とおじさんたちに訊かれては、

「いえ、上に行くので」
とか、

「下に行くので」
とか笑顔で適当なことを言っていた。