その恋、記憶にございませんっ!

 



「もー、蘇芳さんったら」
と唯は文句を言っていたが、蘇芳は終始ご機嫌だった。

「なんですか?」
と二人きりのエレベーターの中、蘇芳を見上げて問うと、

「いや、二度目だな、と思って」
と蘇芳は言う。

 は?

「二度目だな。
 こうして、お前に手を引かれて歩くのは――」

 そう言い、蘇芳は唯を見て笑った。

 ああっ。
 しまったっ!

 なにか違和感がなく、あれからずっと手をつないでしまっていたのだ。

 すっ、すみませんっ、と唯は慌てて手を離した。

 蘇芳は手を離してからも機嫌が良く、ただ微笑んで唯の顔を見下ろしている。

 いや……なんかあの、

 ……照れるんですけど、と思いながら、下に着くまでの間、唯の方が目をそらしてしまっていた。