その恋、記憶にございませんっ!

 




 こんなに会議が終わるのが待ち遠しかったことはない。

 昼前、ようやく会議が終わり、みんな立ち上がって、片付けたり、知っている人間と談笑したりし始めた。

 慎吾も急いで自分の書類をしまい、立ち上がる。

 顔見知りらしいよその会社の人間と話している蘇芳のところに行った。

 自分に気づいた蘇芳は、
「おお、お前は、ダービーの慎吾」
と愛想よく迎えてくれる。

 三上会長の直系の孫らしい蘇芳は、若いのに、さすがの貫禄だった。

 彼と話していた年配の男は、ダ、ダービーの慎吾って、なんだ? という顔をしていたが、そこにはさすがに突っ込まず、
「では」
と丁寧に頭を下げて、行ってしまった。

 なんとなく彼を見送りながら、ダービーの慎吾って変な通り名みたいになってるが、と思っていると、
「慎吾、お前、なかなか趣味がいいな。
 あの器はいいぞ」
と蘇芳が言ってくる。