その恋、記憶にございませんっ!

「あ、蘇芳様。
 おはようございますー」
と言う本田を無言で手招きした。

 すると、本田は、
「なんですか?」
と水が噴き出すホースを手にしたまま近づいてくるので、慌てて手で払う。

「置いてこい……っ!」

 今日は出張なのに、濡らすな馬鹿者っ、と思っていると、ああ、すみません、と自分は水が飛んでもいいように腕まくりをしている本田は、そう急ぎもせずに水を止めに行った。

 ……宮本と本田、足して二で割るとちょうどいい感じなんだが、と思いながら、蘇芳は、戻ってきた本田に、
「おい。
 お前、今夜は宮本を足止めしろ」
と命じた。

 は? と間抜けな声を上げる本田に、
「俺が唯のところに行くのを邪魔しないように、あいつを見張ってろと言ってるんだ」

 そう言いながら、長財布から一万円出す。

 すると、本田は、まるで越後屋から二重になった菓子折りを受け取った悪代官のように、これはこれは、と笑いながら、それを受け取ろうとした。

 だが、
「なんですか? これは」
と言いながら、それを横から取ったものが居る。