その恋、記憶にございませんっ!






「宮本さん、これ残業代、つくんですよね?」

 運転席に居る本田がそう訊いてきた。

 この間の場所とは少し位置をずらして、車をとめていた。

 蘇芳様もだが、前田唯も意外と鋭いからな、と思いながら、宮本は蘇芳が入って行った唯の部屋を双眼鏡で眺めていた。

「熱心ですねー」
と本田は半ば呆れたように言ってくる。

「双方、婚約者の方がいらっしゃるんでしょう?

 家と家とのお付き合いで決まったことでしょうし。

 今更、それを覆して、あの二人が結婚出来るとも思えませんけどね」

 お二人ともご自分の立場はわかってらっしゃるんでしょ? と本田は言う。

「ご結婚が絡まなければ、別に蘇芳様が何処かの女性に通われててもいいと思うんですけど。

 愛人が居るとか、普通のことなんでしょ?
 ああいう人たちって」

 金持ちには愛人が居て、当たり前という口調で本田は言ってくる。

 いや、当たり前ではない。

 彼らもまた、血の通った人間なのだから。