その恋、記憶にございませんっ!

 



 夜、唯がコンビニで温めてもらったグラタンを食べながら、昼間見ていたのとはまた違うフリーペーパーのグルメ特集を見ていると、チャイムが鳴った。

 チャイム……

 意味あんまりないよな、と思う。

 なにせ、安アパートなので、廊下を歩いてくる足音もよくわかるし。

 一部屋な上に、テレビもないので、食事をしながらでも、窓から今、こちらに向かって歩いてくる大きな男がバッチリ見えていた。

 逃げよう……。

 何処に? と唯はあちこち見回すが、もちろん、隠れるところなどない。

 ピンポン、ともう一度鳴った。

 それでも出ないでいると、古い木製のドアの外から声が聞こえてきた。

「困ったな。
 居留守を使われている。

 宮本に鍵を開けさせるか。

 いや、それだと宮本が犯罪者になってしまうな」

 いや……命じた貴方が、だと思いますが、と思いながら、唯は身じろぎひとつせずに、じっとしていた。

 気配を消そうとしたのだ。

 灯りがついている時点で、居るのはバレバレだったが。