その恋、記憶にございませんっ!

 



 今日はいい日だ。

 緑の多い会社の道を唯と並んで歩きながら、慎吾は思う。

 今朝、なにかいいことでもしただろうか。

 こんな幸運に恵まれるなんて。

 横を歩く唯の笑顔は子どもの頃から変わらない。

 ああ……和むなーと思いながら、慎吾は唯の話を聞いていた。

 おじいさまめ。
 なんだって、こんなに可愛い唯を翔太(しょうた)なんかに。

 自分の一族の誰かと唯を、と常々思っていたところに、翔太が熱烈に頼み込んできたかららしいが。

 翔太め。
 本当に如才(じょさい)ない奴だ、と思う。

 自分と違って、唯とはあまり面識もないくせに、会長が唯を気に入っているから、唯と結婚しようとしているのだろう。

 唯は出世の道具じゃないのに。

 たいして仕事も出来ないのに、立ち回りだけ上手い、と思ってしまうが。

 一緒に仕事をしたことはないので、たいして仕事も出来ないのに、というのは、自分の嫉妬から来る思い込みなのかもしれない、とは思っていた。