その恋、記憶にございませんっ!

 現会長は、こんな一等地を売っていただいて、と未だに恩義を感じてくれているらしいのだが。

 会うたびに、

「ありがとうございます。
 ありがとうございます。

 此処に建ててから、業績も上向きで。

 それもこれも、此処を売ってくださった前田様のお陰でございます」
と唯たち一家を拝んでくる。

 ……いや、別にこの土地、神社だったとかじゃないんで。

 業績がアップしたのは、前田家によるご利益ではない。

 会長や社員一同が頑張ったからだ。

 たまたまその現場を目撃した千花が、
「唯のおうちは、なにかの新興宗教?」
と訊いてきたほどだ。

 いや、それだと、会長が新興宗教にはまっていることになってしまうのだが……。

 まあ、そんなこんなで、慎吾とは幼い頃からよく顔を合わせていたので、会社に入るまでは、ずっと彼のことは、慎吾さん、と呼んでいた。

「唯、どっか行くの?」
と慎吾が訊いてくる。