その恋、記憶にございませんっ!

 昔の学校のお友だちなんかは、私のことを落ちぶれたと思っているのかもしれないけど。

 私は、今の生活に不満はないな、と唯は思っていた。

 この会社のお給料も悪くない。

 実家に少し仕送りしているので、そんなに楽な暮らしではないが。

『お父様は唯に迷惑はかけられないとおっしゃって。
 貴女にいただいたお金は使わず、嫁入り支度のために全部取ってあるんですよ』
とお母様はおっしゃってたけど。

 ……嫁入り支度か。

 ああ、嫁に行きたくないな、と思いながら、瑞穂が指差すランチの店を見たとき、

「あっ、慎吾(しんご)課長だよ」
と誰かが言った。

「やだー。
 課長、今から食べるの?

 もうちょっと後にすればよかった」
と千花たちが言っている。

 桝谷慎吾(ますや しんご)は、この会社の会長の孫だ。

 桝谷一族が結構社内に居るので、彼は慎吾課長と名前で呼ばれている。

 今の重役たちが、彼を子どもの頃から知っているから、名前で呼びやすいと言うのもあるが。