その恋、記憶にございませんっ!

 



 離れたあとで、
「あ、晩ご飯、まだ食べてなかったです」
と照れたように唯が言うと、

「そうだな。
 何処か食べに行くか」
と蘇芳は言ったが、

「いえ、たまには私が作りますよ」
と唯は立ち上がる。

「材料なにもないから買いに行かなきゃいけないですけど」
と言うと、一緒に行こう、と蘇芳も立ち上がった。

 玄関に向かいながら、蘇芳が訊いてくる。

「お前、なにが得意なんだ?」

「なんでしょう?
 普通の煮物とかハンバーグとか、酢豚とか」

「酢豚か、いいな」
と言って蘇芳が開けたドアの向こうに、ちょうど大きな白い月が見えた。

 吸い寄せられるようにそれを見つめる。

 あの晩の私の恋は記憶に残ってはいないけど。

 でも……。

 鍵をかけた唯の前に、蘇芳が手を出してくる。

 唯は少し微笑み、その手の上に自らの手を重ねた。

 ねえ、蘇芳さん。
 あの日、きっと私も思ったんですよ。

 こうして、ずっと二人で歩いて行きたいと……。