その恋、記憶にございませんっ!

 そっちから来てくださいよ。
 恥ずかしいから、と赤くなりながらも、唯はあのテーブルを避けるようにして、ちょっと蘇芳に近づいた。

 蘇芳はその手をつかみ、抱き寄せる。

 蘇芳の膝の上に座り、その腕の中でじっとしていると、
「唯。
 俺のこと、好きか?」
と蘇芳が訊いてくる。

「……あ、しゃべりましたね?」
と上にある蘇芳の顔を見て睨むと、

「好きかと聞いただけだろう」
と言う。

「私、貴方が貴方の声で話すだけで、なんだか動揺してしまうんですよ。
 平静ではいられないというか」
と言うと、蘇芳は、

「それは恋だろう」
と言い出した。

 間近にある蘇芳の、あの人形とは似ても似つかない顔を見つめ、
「恋なんですかね?」
と訊くと、蘇芳は、

「恋だろう」

 そう繰り返し、笑う。

 だが、その妙に説得力のある声と口調に、唯が、
「……やっぱり騙されてる気がします」
と言うと、蘇芳は、フライドチキンのおじさんではない手で、唯の手を握り、

「じゃあ、一生騙されてろ」
と言ってキスしてきた。