その恋、記憶にございませんっ!

 樹いわく鉄板ネタの『酔って道端のフライドチキンのおじさん持って帰る』話を、あの晩、していたようだ。

 そうそう。
 途中から合流した、誰かの大学の友人だとかいう女の子達に話していた。

 でも、私は、樹の方には背を向けて呑んでいたはずなのにっ。

 微かに耳に入ってきていた話に洗脳されていたらしい。

 恐ろしいまでのインパクトだ、フライドチキンのおじさんっ!

「でも、連れて逃げる人が多いから、最近は、おじさん、鎖でつながれてるって言わないですか?」
と新入社員の女子が瞳をキラキラさせて、樹を見上げ、そんなことを訊いている。

「そうなんだよ。
 だから、近くの店舗の消火器とかシャッターの……」

「その辺でやめとかないと、通報されるわよ」
と一応、同期として忠告しておいた。

 みんなこんな与太話を信じているわけではあるまい。

 単に、樹とお近づきになりたいから聞いているのだ。

 ご苦労なことだな、と思いながら、唯は席に戻り、続きを食べ始めた。

 ああ、お昼……。

 安らぎの時間だ、と思いながら。

 大葉とササミのフライがカリッカリッに揚がっていて、美味しい。