その恋、記憶にございませんっ!

 





「お運びしましょうか?」

 たまたまエレベーターで、昨日のベルボーイの人と一緒になった。

 唯がまだ、つかんでいたテーブルを見、笑ってそう言ってくる。

「いや、いい。
 唯はこれを持っていたいんだそうだ」
と蘇芳は言ったが、唯は、

「いえ、お願いします」
と言って、運んでもらった。

 あっさり手放した自分に蘇芳が意外そうな顔をする。

 夕べは自分を守る鋼鉄のバリケードでもあるかのように、それを握り締めていたからだろう。

 唯は、軽くテーブルを持つベルボーイの人の背中を見ながら、さすが一流ホテル、と思っていた。

 昨日と今日とで自分の持ち方が全然違うことに気がついて、話しかけてきたのに違いない。