その恋、記憶にございませんっ!






 罠ですよ。

 きっと罠なんですよ。

 で……、何処までが罠なんでしょうね?

 そんなことを思いながら、まだ暗い中、目を覚ました唯に蘇芳は訊いてきた。

「なにか飲むか?」

「寒くないか?」

 そんな蘇芳の言葉を聞きながら、唯は、おかしいな、と思っていた。

「なんで泣いてるんだ?
 やっぱり嫌だったのか?」

 蘇芳は、親指で唯の涙を拭い、囁いてくる。

「違います」

 言いながら、違います? と自分で思う。

 嫌ではなかったということか?

 いや、違う。

 違うのは泣いている理由だ。

 蘇芳さんが、いつまでも優しいから泣いてるんです、と唯は思った。

 なんだか怖くて。

 こんな時間がずっと続くとは思えないから。

 永遠に変わらないと思っていた日常がある日、激変したせいだろうか。

 なにか幸せが訪れても、それがずっと続くとは思えなくなっていた。

 蘇芳は壊れ物にでも触れるように、唯の頰に触れるとその額におのれの額をすり寄せてくる。