その恋、記憶にございませんっ!

「俺を横に座らせないよう、それに座ったのかと思ったぞ」
と言いながら蘇芳は立ち上がると、

「でも、この椅子だとこういうことが出来るんだが」
と両の肘掛に手をかけ、唯が逃げられないようにしてキスしてくる。

 キスされながらも唯は、膝に抱えたテーブルで、それ以上、蘇芳が近づかないよう、ガードする。

 だが、蘇芳は笑い、
「それ、持ってたら落ち着くのなら、ずっと持ってていいぞ」
と言ってきた。

「風呂入るか? 唯。
 入らなくてもいいが。

 まあ、とりあえず湯は入れといてやろうか」
と蘇芳は自ら湯をはりに行く。

 ……怖いな、と唯は思っていた。

 やさしすぎて、なんか怖い。

 すごい勢いで湯のたまっていく音を聞きながら、唯はまだ固まっていた。

 ……罠かな?

 罠だな。

 罠なんでしょう、きっと。

 そういうものだと聞いた気がする。

 男の人はこういうとき、相手を手に入れるまではやさしいって。