その恋、記憶にございませんっ!

 ボロボロのアパートにも慣れたつもりだったのだが。

 此処に入った瞬間、ほっとしてしまった。

 良くないなあ、そういうの、と思いながら、唯は一人がけの椅子に腰掛け、今まで築いてきた地道な生活にしがみつくようにテーブルを抱えた。

 蘇芳はそんな自分を見て笑い、
「なにか呑むか?」
と訊いてきた。

「け、結構です」
と言ったのに、ワインを持ってくる。

 ……呑んでしまった。

 怒涛の展開に緊張して、喉が渇いていたので、味わう間もなく、呑んでしまった。

 蘇芳が早速、二杯目を注いでくれる。

「ところで、なんでそこに座ってるんだ」
と蘇芳の居るソファから離れて座る唯に、蘇芳がそう訊いてくる。

「……や、夜景が見えるからです」
と言い訳してみたが、

「こっちからも見えるぞ」
と言われてしまう。