その恋、記憶にございませんっ!






「前田様、お久しぶりです」

 ああ、このホテルか、とフロントで支配人に話しかけられた唯は思う。

 豪華だが、派手すぎず、ゆったりとした雰囲気のロビーが懐かしい。

 昔は家族でよく訪れていた。

 出会ったことはなかったが、蘇芳さんも来ていたのか。

 不思議な縁だな、と思う。

 ぼんやりしていたので、なんの話をしていたのか聞いてはいなかったのだが。

 支配人は笑顔で蘇芳と話したあと、
「そうですか。
 おめでとうございます」
と二人に微笑みかけ、部屋の手配をしてくれた。

 優秀なホテルマンは、どうしました? と客のプライバシーに首を突っ込み、問うこともない。

 唯は小さな折り畳みテーブルをつかんだまま、豪奢なホテルの中をベルボーイに先導され、エレベーターに乗り、スイートルームへと向かった。

 ヨーロピアン調の家具でまとめられた広い部屋は、昔、家族で泊まったことのある部屋だった。

 二人で泊まるには、ちょっと広すぎる感じがする。