その恋、記憶にございませんっ!

「……どうりで、勝手について歩いてくると思いましたよ」

「ホラーだろ、それ」
と蘇芳は言う。

「でも、そもそもなんで、酔ってひとりでチキンなおじさんと話しているような女の手をつかんだんですか?」
と訊くと、なんでだろうな……と蘇芳はひとり呟いたあとで、

「結婚とはこんなものなのかな、と思って歩いていたんだ」
と言ってきた。

 それは、いつぞや聞きそびれた話の続きのようだった。

「どんな相手でも添っているうちになんとかなるもんだとみんな言うが。
 結婚とはその程度のものなのか、と思いながら歩いていたんだ。

 そしたら、目の前で、女が白い服の人形に向かって愚痴り始めた。

 自分と同じようなことを言っていて、なんだか気になった」

 だからだろうかな、と蘇芳は言う。

「お前が人形の手をつかもうとしたとき、思わず、自分の手を差し出していた。

 俺の手を握ってきたお前の手は温かくて。

 それでなんだかつい、此処まで、ついてきてしまったんだ」