その恋、記憶にございませんっ!

 




「蘇芳様が戸締まりを手伝っておられる」

 双眼鏡で唯のアパートを見ながら、宮本は呟く。

 あの蘇芳様に、なにをさせるんだ、と思っていた。

「……さすがは姫だな」
ともらすと、

「姫?」
と本田がそろそろ出番かとエンジンをかけながら、訊き返してきた。

「前田唯は、世が世なら、前田藩のお姫様だ。
 父親は人の良い莫迦殿だったようだが。

 姫は世間の荒波にもまれたせいか、意外にしっかりしているようだな」

 蘇芳と唯がこちらに来るのが見えた。

 まあ、こうして、外見だけ見ていると、似合いの二人だ。

 とても、道端のフライドチキンのおじさんと間違えられて始まった恋とは思えないな、と思いながら、

「まあ、今の話はまだ内密にな。
 ……雪也(ゆきなり)様には私が言う」
とそちらを見ながら言うと、素直な本田は、はい、わかりました、と言う。

 素直というか、面倒事には首を突っ込まずに流したい、いまどきの若者だ。