その恋、記憶にございませんっ!

 




「私、ちょっとだけ蘇芳さんを尊敬しました」

 帰りの車の中、唯は言った。

「あの環境で育ったら、もっと思い上がった感じで、我儘に育ってもしょうがないかなあ、と思うのに」

 すると、蘇芳は笑い、
「いや、俺は充分思い上がってるぞ」
と言ってきた。

「出会ったときから、ずっと。
 お前はいつか必ず、俺を好きになると信じているからな」

 いやそれ、願望で、思い上がりじゃないですよね、と唯は思った。

 それは、恋をしたら、誰でも願うことで、思い上がりでも我儘でもない。

 っていうか、そう言うってことは、今現在、私が貴方のことを好きじゃないと思ってるんですね?

 充分謙虚だなと思いますが。

 いえ。
 実は私が、今もう既に、貴方を好きだとか。

 そういうことを言っているわけではないんですけど……。

 そんなことを考えているうちに、あの誠のTシャツを買った道の駅の前を通った。

 あのTシャツ、パジャマにでもしよう。

 着心地良さそうだったしな、と思いながら唯は言った。