その恋、記憶にございませんっ!

「そ……そうですね」
と唯は繰り返した。

 そのとき、ふと。
 寝ていたので見てはいないはずの蘇芳の姿が頭に浮かんだ。

 一晩中、自分の枕許に正座し、手を握ってくれていた蘇芳の姿が。

「やさしい――

 やさしいところですかね」

 なんとなくそう口からもれていた。

 あ、もっとなにか言わないとまずいかな、と思ったのだが、それだけしか言わなかったのに、万里子は何故か微笑んでいた。

 横の蘇芳に小声で囁く。

「すみません。
 心にもないこと言っちゃいました」

「そこ、謝るところじゃないだろう……」

 心にもない……

 かどうかは、まあ、よくわからないが。

 勝手に口から出てしまった言葉だから。

 そう思いながら、祖母たちと談笑する蘇芳を見上げた。

 ……やさしい?

 やさしいだろうか。

 ……やさしいのかなあ?

 そんなことを考えながら、良い香りのする紅茶を飲み、ぼんやり、みんなの話を聞いていた。