その恋、記憶にございませんっ!

 この場合の魔王とは、おじい様ではなく、お母様なんだろうな、と思いながら、唯は二人の後について行った。

 そうそう。
 よく考えたら、私、関係ないし。

 ――と現実逃避する。

 別に蘇芳さんと結婚するわけじゃないし。

 ――と現実逃避する。

 なんとなく連れてこられただけだし、と自分自身に言い聞かせながら、唯は広い玄関ロビーに入っていった。

 窓がすべて開け放たれていて、屋敷を囲う森の新鮮な空気が家中を吹き抜けている。

 わ……。
 気持ちいいな。

 吹き抜けになっている高い天井を見上げ、唯は思った。

 本田がこの屋敷の使用人らしき女性と話している。

 彼は、ほっとした顔をして、彼女の横に立ち、
「では、私がご案内できるのは此処までです」
と言い出した。

「お前は道案内の村人かっ」
と蘇芳に罵られながら。

 本田の役目は、蘇芳を此処まで連れてきたことで終わったらしく、仕事の終了を告げられた本田はご褒美としてというわけではないだろうが、違う部屋でお茶をいただくようだった。