その恋、記憶にございませんっ!

 そんなことを思いながら、唯がフロントガラスから屋敷を見上げていると、

「ばあ様の趣味なんだ。
 ……我が家は代々、女が強くて」

 強制的にこういう別荘になったのだと蘇芳は語る。

 だが、

 いやいやいやいや。
 待ってください、と唯は思っていた。

 その理論で行くと、貴方と結婚した場合、私も貴方より強いことになってしまうんですけどっ。

 などと考えながら、庭先に止めた車から降りると、先に降りていた本田が腕を組み、仁王立ちになって待っていた。

「よくぞ逃げずに来ましたね」
と言う。

 別々の車で来たので、やはり、途中で逃亡の危険がある、と思っていたのだろう。

 それにしても、既に使用人の態度ではない。

 余程、切羽詰まっているのだろう。

 蘇芳の母が恐ろしくて――。

 蘇芳はそんな本田を、
「お前は、最初に現れる魔王の手下か」
と罵る。