その恋、記憶にございませんっ!

 そして、おじい様より、お母様の方が悪として上なのですね、と思っていると、蘇芳は、前の本田の車をぼんやり見ながら、

「……このままそっと道を変えて、逃亡しようか。

 いや、本田が何処までも追ってきて、しとめに来そうだなあ」

 宮本みたいに、と呟く。

「駄目ですよ。
 見捨てちゃ。

 本田さん、一緒に釣りした仲間じゃないですかっ」
と唯は言う。

 変な連帯感が生まれていた。

「美味しかったですよね。
 山女のぶつ切りの唐揚げもなかなかいけましたね」

「ああ、揚げたてが一番だな」
と楽しい思い出を二人で魔除けの呪文のように語りながら、その城に着いた。

 なんとなく、今にも殺人事件が起こりそうな和風邸宅なイメージだったのだが、蘇芳の祖父の屋敷は、まるで城のような洋館だった。

 今にも右の塔の風に揺れるレースのカーテンのところから、お姫様が顔を出してきそうな感じだ。