その恋、記憶にございませんっ!

 



 素敵な宿だった。

 あのあと、結局、本田も一緒に釣りをし、魚を焼いて食べ、絶好の釣りポイントを教えてくれた宿の人とも楽しく談笑し。

 草原(くさはら)で頭からぶつ切りにして、唐揚げにした山女(やまめ)を食べたあと、本田が笑顔で、
「あー、行きたくないですねー」
と心から言ったので、みんなの心もひとつになったが、そういうわけにもいかなかった。

 残念ながら、全員が現実逃避をしていても、なんにもならないことを知っている大人なので、仕方なく腰を上げ、楽しい時間をくれた宿の人たちに礼を言って、宿を出た。

 蘇芳の車は本田の車のあとをついて走る。

「三人で同じところに行くのに、車二台で並んでいくのもマヌケですね」
と唯が言うと、

「しょうがないだろ。
 置いてくわけにはいかないんだから」
と蘇芳は言う。

「それにしても、じい様を味方につける前に、行くことになるとは。

 じい様も既に悪の手先になっているかもしれん」

 そう呟く蘇芳に、

 一体、どんな方なんですか、お母様、と思った。