その恋、記憶にございませんっ!

 だんだん空が青紫に変わっていく中、周りの水もその色に染まっていって――。

 いつの間にか、側に来ていた蘇芳がそっと跪き、キスしてきた。

 少し酔いが回っていたせいか、周りの景色が幻想的過ぎて、現実かどうか危うい境にあったせいか、そのまま受けてしまう。

「唯……」
とリクライニングチェアに両手をかけ、上からキスして来ようとした蘇芳を唯はようやく押し返した。

「蘇芳さん、私、結婚までは清く行きたいんです」

 隠し持っていた、ビニールに入ったままの『誠』と書かれた黒いTシャツを見せると、蘇芳はそれを手に取り、眺める――

 ――フリをして、プールに投げ込んだ。

「あーっ!
 自分で買っておいてーっ!」

「服なら、明日、ちゃんとした店で買ってやる」

 そう言って、蘇芳はもう一度キスしてくる。

 ……本当に適当な人だな、と思いながら、なんとなく逃げそびれて、それを受けてしまった。