その恋、記憶にございませんっ!

「え? どんなのですか?」
と蘇芳の視線を追って見上げると、黒いTシャツがあった。

 白く漢字で、「根性」とか、「烏賊」とか、「命」とか書かれている。

 根性、命はわかるけど、……烏賊(イカ)?

 なんか海賊っぽくて格好いいからか?

 じゃあ、海賊でいいではないか。

 イカが此処の名産品なのだろうかな?

 っていうか、下に扇子とか日本人形とかオモチャの刀とか手裏剣があるから、おそらく、この一角は外国人観光客用だろうな、と思っていると、

「どれがいいかな?」
と蘇芳が上を見上げ、選び出した。

「いやいやいやいや。
 待ってくださいっ」
と思わず、その腕をつかむ。

「まあ、ずっと同じ服というのは、女性は嫌がるものらしいからな」

 うちの親なんか、一日五回は着替えてるぞ、と言い出す。

 なんとなく、会いたくない感じのお母さんだなと思ってしまった。

 ゴージャスな服を、蘇芳に似たゴージャスな顔で取っ替え引っ替えしているイメージだ。

 そんなことを考えている唯の前で、怪しい黒いTシャツを見ながら、蘇芳が言ってくる。