その恋、記憶にございませんっ！

「ええっ？
　それはちょっと……」
と口ごもると、蘇芳に似た目で見下ろされる。

「れ、連絡とってみます」
と言うと、

「連絡とるだけなら、宮本でいいのよ。
　貴方、運転手でしょ。

　蘇芳を乗せて帰ってきなさい」
と言う。

　運転手なことまで知ってるのか、と怯えていると、宮本が、小声で、
「奥様は全部の使用人の顔と名前をご存知なんだ」
と言ってくる。

「そ、そうなんですか……」

　怪しい人物を雇わないよう、目を光らせているだけなのかもしれないが、もう実家の両親まで人質に取られている気持ちになって、

「い、今すぐ追いかけていきます……」
と簡単に蘇芳を売ってしまった。