その恋、記憶にございませんっ!

 




 女帝が来た、と本田は思った。

 蘇芳や御前になら、ビビらず話せる自分でも、これはちょっと、と宮本の陰に、すうっと隠れる。

 なんかゴージャスな美女が入ってきたと思ったら、蘇芳の母親だったのだ。

 滅多にこっちの家には戻ってこないので、あまり間近に見たことはなかった。

「蘇芳はどうしたの?
 此処に居るんでしょ?」
と宮本に訊いている。

 自宅に帰ってきたのに、此処に居るんでしょ? というのもおかしい気がしたが、この人たち、家が何軒もあるようだから、そのときそのときの便利な場所に、それぞれが住んでいるのだろう。

「蘇芳様は、本日はお出かけになられています」

「私が帰ってくると言ったのに?」
と言ってくるが、いや、いい年した息子がママが帰ってくるからって、待ってないだろうよ、と思っていると、

「本田」
と名前を呼ばれた。

 はっ、はいっ、とかしこまる。

 何故、名前をっ!? と思っていると、
「蘇芳を呼んで来なさい」
と早速、命じられた。