その恋、記憶にございませんっ!

「仕事が休みの日にリフレッシュするのが日本人は下手だと言われるが。

 まあ、確かに、なかなか気持ちの切り替えが出来ずに、気がつけば、仕事の段取りを考えてたりするんだが」

 それはちょっとわかる気がするな、と思っていると、蘇芳は、
「今日は、リフレッシュ出来そうだぞ。
 朝からお前と一緒で、お前のことしか頭にないからな」
と笑って言ってくる。

 特に口説いているつもりもないらしく、ごく自然な口調だった。

 空が青いな、くらいの。

 確かに仕事のことなど、一ミリも頭に浮かばなかったな、と唯も思う。

 そういえば、好きな人とだったら、何処へ行っても、なにをしても楽しいとかいう、たわごとを美香ちゃんが言ってたけど。

 いやいや、これは、それとは違うはず。

 本当に美味しかっただけだ。

 回転寿司も、コンビニのサンドイッチも。

 こうして走っていて、心地よかったり、リラックス出来たりするのも、ただ本当に海から吹き込む潮風が気持ちいいからだ。

 いや、ほんとーに……と思いながら、唯は膝の上で両の拳を握り締めていた。