その恋、記憶にございませんっ!

「だが、気持ちが抑えられなかったんだ。
 こんなことは初めてだ」
と言う蘇芳に、

 いや、その、初めてじゃないところが気になるんですが……、と思っていた。

 やっぱり、前に誰かと付き合ったことあるのか。

 複数人っぽいな。

 まあ、当たり前だよなー。

 おかしな人だけど、これだけのイケメンでお金持ちで。

 行動は突飛だけど、悪い人じゃないし。

 まあ、モテるんだろうな、とは思う。

 しかし、ってことは、この車の助手席にも何人か乗ったんだな。

 ……捨ててください、この車、と思ってしまった。

 もちろん、口には出せなかったが。

「あのー、この車いつ買ったんですか?」

 かわりに、つい、そう訊くと、蘇芳は、
「昨日だ」
と言う。

「昨日?」

「いや、買ったのは前だが。
 古い車だから、やっと整備が終わって届いたんだ」

 それで乗って出たかったのか、と唯は笑う。

「じゃあ、いいです」
とうっかり言ってしまい、なにが、じゃあ、いいですなんだ? という顔をされてしまった。