その恋、記憶にございませんっ!

 




 蘇芳の車は古いビートルだった。

 なにやらこれがお気に入りらしい。

「可愛いけど、すごい音ですね、これ」

 振動もすごいな、と思いながら、唯は助手席で言ったが、

「いいだろう」
と蘇芳は笑うばかりだ。

 まあ、いいと言えばいいかな。

 可愛いし。

「この型が気に入って探して買ったんだが。
 たくさん子どもが産まれたら買い替えてもいい」

 えっ、たくさんっ? と唯が身構える。

「このご時世、大変じゃないですかね?

 私は、二人くらいがいいです。
 子育て大変そうなので」
と言うと、

「わかった、二人だな」
と言う。

 どうしたことだ。

 好きだとも言っていないのに、家族計画が着々と進んでいる。

 蘇芳は前を見たまま言ってきた。

「いや、実は今日は、俺もお前には会うまいと思ってたんだ。
 あまり頻繁に顔を出して、早々に呆れられても嫌だし。

 押しかけるような真似もちょっとな、と思って」

 いや、すでに、再々、押し掛けてますよねー、と思う。