その恋、記憶にございませんっ!

 



 昨日の私はどうかしていました。

 あんな簡単に、キスとか許してしまうなんて。

 それも、フライドチキンのおじさんと間違えて持って帰った人に。

 今日は土曜だし。
 ひとり、心を落ち着けて考えたい。

 そんなことを考えながら、唯は性懲りもなく、朝、朝ご飯を買いに、コンビニに行こうとした。

 すると、開けかけたドアの前に、黒い人影が――。

 ひーっ、と慌てて閉めようとするが、ガッと足を突っ込んでこられる。

 ドアノブをつかんだが、反対側から引っ張られた。

「やっ、やめてくださいっ。
 壊れます、このドアッ」

 古いからっ、と唯は心の中で叫ぶ。

 あんまり大きな声を出すと、下の大家さんに聞こえる気がしたからだ。

 昨日の翔太さんに続き、私まで、このアパートをボロイと罵っては追い出されるに違いない、と思っていた。