その恋、記憶にございませんっ!

「なにするんですかっ。
 此処、会社ですよっ。

 っていうか、貴方、もしかして、今の騒ぎ、見てなかったんですかーっ?」

 マイペースにも程があるっ、と絶叫する唯の両腕を逃すまいとつかんだ蘇芳は、
「いや、宮本に言われて、お前と距離を空けてたんだが、俺の思いが募っただけだった。
 愛してる、唯っ!」
とまだ人も居るロビーで叫んでくる。

 ひーっ!
 やめてくださいーっ!

 っていうか、この間、フライドチキンのおじさんと男を間違えるような女はごめんだとか言ってませんでしたかねーっ? と思っていると、

「ところで、唯。
 此処、会社ですよ、というのが拒絶の理由ということは。

 此処から一歩でも出れば、してもいいのか」
と蘇芳は外の通りを見ながら言ってきた。

 ……嫌ですとも、と人々の行き交う歩道を見ながら、唯は思う。

 だが、逃げようにも、腕は、しっかりとつかまれたままだった。