その恋、記憶にございませんっ!

 肩に置かれた翔太の手の重みを思い出しながら、押し寄せてくる現実感にちょっと怖くなってきたが、会長の手前、逃げ出すわけにもいかず、唯は、ロビーで翔太を待っていた。

 しばらく待つと、エレベーターから翔太が降りてきた。

「じゃあ、行こうか」
と唯の手をつかみ、歩き出そうとする。

 だが、そのとき、玄関に現れたものが居た。

 なんとなく蘇芳を連想していたのだが、宮本だった。

 肝心なときに、何故、来ないーっ、と蘇芳に向かい、心の中で絶叫していると、宮本が言う。

「お待ちください、桝谷翔太様。

 貴方がいらっしゃらない間に、唯様はもう、我が主人、三上蘇芳様とご婚約されたのですよ。

 蘇芳様はただいま、急な出張中で、唯様に会えずに、のたうち回っていらっしゃいますが」

 そうだったのか……と思っていると、宮本は、
「毎日続けて会うより、なにも言わずに間を空けて、あら? どうしてあの人来ないのかしら、と女性に思わせた方がよいと私がアドバイス申し上げましたので、今まで蘇芳様から、なんの連絡もしなかったこととは思いますが」
と言ってくる。