その恋、記憶にございませんっ!

 




 うーん、今日もよく働いた。

 おや、さっきまで天気がよかったのに、何故か突然の曇天に、と夕方、片付けをしようと立ち上がった唯は、窓ガラスにちょっと信じられないものを見て、固まっていた。

 幻覚か。
 アイボリー系のスーツを着た男がそこに映っているような気がする。

 ネクタイの色は地味だが、なにか何処かが日本のオフィスでは浮いている男が映っているような気がする。

 そして、幻覚だと思っているはずなのに、振り返るのが怖いような気がするっ!

 窓ガラスを見たまま固まっている唯の許に、それは容赦なく近づいてきていた。

「唯」

 ぽん、と肩を叩かれる。

 ひいーっ、と振り返ったそこには翔太が居た。

 もちろん、幻ではない。

「いやー、佐藤がおかしなことを言って電話してきたせいか、妙な夢を見てな。
 予定を早めて帰ってきたんだ」

 驚いたろう? と翔太は言うが。

 いや、佐藤って誰だ。

 そして、予定を早めてって、そんな予定があったことをまず、知らなかったんだが、と思いながら、肩に手を置かれたまま、唯は固まる。