「ああっ!もう!」

グシャグシャと髪を掻き、トップを見据えた。

「結局!私が言いたいのは!…健全なお付き合いとか言わないから、無理矢理は禁止!分かった!?」

「はい…」


果たして、沙耶の兄貴たちの色恋沙汰で落ち込んでいるのか、それとも、沙耶の言葉で落ち込んでいるのかは定かではないが、また、悪さすれば、潰すということで。


とりあえず一件落着して、髪の毛をほどき、振り向く。


「本当、ごめんねぇ~昔から、ああなんだ。まぁ、弱いから、気にしないで」


気にしないなんて、無理かもしれない。
男に無理矢理、押さえ込まれたのだ。
恐怖もあったかもしれない…

「格好良かったね!名前は?何て言うの?私は、澪!」

―…どうやら、心配はいらないらしい。


「黒橋沙耶。沙耶でいいよ」


「本当?私も澪で良いよ!千羽澪!」


「わかった。って…“千羽”!?えっ、じゃあ、千羽千歳の姉!?」


「そうそう!千歳のこと、知ってるの?」


「いや、私が驚いているのは、千羽って男三兄弟のはずで…」


「ああ、そゆこと!」


澪は合点がいったと言うように、笑う。


「私ね、千歳の義姉なの。えっと…千歳のお兄ちゃんである、千羽相模の嫁だから」


自分を指差してそう言った澪は、確か、まだ、17歳…沙耶と同い年のはずで。


「婚約者だったの。私がもー好きで好きで」


頬を染めてそう言う彼女は、とても幸せそう。


「ん?じゃあ、さっきの状況、めっちゃダメじゃん!」


男に襲われかけていて、しかも、旦那持ち。

あんな目に遭っても、何故、平然と…

そんな沙耶の疑問に答えるように、


「私達は、幼い頃から虐めとか、誘拐とかよくあることでしたので」


冷静な声でそう言った夏翠さん?は、沙耶の手を握る。


「先程は、本当に助かりました。ありがとう」


先程とは違う雰囲気。


(ああ…)


”お嬢様“だ。

感じたことある雰囲気だと思えば。

言えば、沙耶もその面子なのだが、性格がこの通りなので、お嬢様らしさは全くない。


(ん?と、いうことは…)


沙耶は夏翠を見て、尋ねる。


「姫宮、夏翠さん?」


見た資料と顔が一致。


「ええ…」


真姫の場合、一言で言えば、かわいいだった。

でも、夏翠の場合は…美人である。


「姫宮夏翠。今日から、この学校に通うの。生徒会室に行く途中で、迷っちゃって…」


相変わらず、仮面をつけ続ける彼女。
そんな彼女に口を開こうとしたとき。





「夏翠!」





聞こえた低い、声。

聞いた覚えがあると思い、振り返れば。



「あ。新しい先生!」



そう、職員室の前でぶつかった先生だった。