沙耶は、誰よりも強い。


強くあろうとして、実際に身を守る方法を身に付けた人間だ。


あの日、覚えた胸の痛みを忘れないように生きるその姿。


『……泣いてるの?』


私に差し伸べられた、希望の手。


『私は、沙耶。黒橋沙耶。貴女は?』


あの8歳の冬を、私は忘れない。


行き場のない私にくれた、希望。


『私ね、独りぼっちなの。だから、側にいて?』


家族がいるのに。


私とは違って、愛してくれる両親がいるのに。


彼女は、そう言う。


なんで、って、苛立ったこともあった。


恵まれている生活に。


けど……


『これは、私のお金じゃない。私のこの服も、家も、明日の食事も、激しく脈を打つこの心臓だって、取り上げようと思ったら、取り上げられる人がいる。それが、私の父親。与えた人だからこそ、取り上げることもできる人。恐らく、私にとって、この世界で一番、怖い相手……』


明らかに、12歳の台詞ではなかった。


彼女の闇は重くて、でも、見とれるほどに綺麗で。


『はぁ……っ』


発作を起こしたときだって、彼女は強くて。


『誰も、呼ばないで……っ、すぐ、良くなるから…っ!』


苦しそうなのに、耐えて。


どうして、彼女は自ら一人になるのだろう。


不思議に思ってばっかりだった。


そんなある日。


『そうか、沙耶が……』


沙耶の両親に、今まで自分が見たことを打ち明けた。


すると、沙耶の唯一の恐怖の相手である健斗さんは、笑って。


沙耶の過去の話をしてくれた。


『忘れないでくれ。あの子は、一人なんかじゃない。いや、独りにしちゃいけないんだ。独りにすれば、完全に壊れる。全てを忘れて、壊し始める。最後には、恐らく、自分でさえも――……』


『嫌ですっ!沙耶がいなくなるなんて……あの子は、私を救ってくれた!私も救いたい!どうすればっ、良いですか……っ!?』



重いって訳じゃない。


これほどまでにないと言うほどに辛いことでもない。


何より、沙耶のせいではないのだ。


あの二人が消えたことは。


なのに、彼女が自分を責め続けるのは……