□薫side■



「桜、どうしようか……」


白いシーツの上に横になる少女の髪に手を通しながら、俺は一人で呟いた。


白い肌は彼女の淡さを増幅させ、それを囲うような長い黒髪は、少女の性格からは考えられないくらいの儚さを象徴する。


「桜……」


静かな病室のなかで、動かない桜の手を握る。


冷たいそれを暖めるように、口元に運ぶ。


けれど、彼女が目を覚ますことはない。



桜が植物状態になって、早二年。


体は生きているのに、目覚めてくれない桜。



『薫!前を向いて!』


『あんたはさ、私の側にいてくれるよね……?』


数々の交わした言葉が、反芻する。


「黒橋、沙耶……」


彼女のことが気になるのは、桜に似ているからだろうか。



それとも……


自分が前世で1番初めに認めた女だからだろうか。


毅然として、本当の思いを隠すのが上手な女。


前世も、現在も変わらない。



「あいつは、相馬の唯一無二になれると思うか……?」


薫には、珍しい弱々しい声。



返事の来ることのないそれは、ただ、独りでに響いて……静かさと絡み合いながら、消えていった。